顔と顔を合わせて唇にキスをしてみると、いとも簡単に繋がった。
もっと抵抗されるのではとをがわは思っていたが、確実に唇同士は触れ合っている。
思いの外スムーズなキスを楽しみながら、をがわはつなきのシャツに手を入れて、指の腹で乳頭とその周りを愛撫する。
畳の匂いに混じり、つなきの身体の香りが鼻先を僅かに擽る。まだ物足りない。
つなきはをがわの首、を通り越して後頭部に両腕を回す。
をがわの髪は乱れ、つなきの髪の毛がするりと重力のままに流れる。
やがてつなきの胸のあたりを往復していたをがわの手は下方へ伸び、先刻辻が緩めたスボンの中へ侵入して行く。
つなきの身体がビクリと、わずか抵抗する。下着の上を通り過ぎ、素肌の太ももに触れた。初めて触れるつなきの足は、しっとりして少しだけ弾力があって、をがわの指によく馴染んだ。
と撫でられる感触に戸惑い、つなきの脚が抵抗するかのように動く。
つなきはをがわの頭部を抱き寄せ、彼の独特の心地よい匂いを引き寄せて行く。
ふと、辻の足音が近づいてくる。
途端、つなきはをがわの肩を押し返した。 まるで居眠りをしすぎて慌てて飛び起きた兎のように、急に夢の中から現実に戻ったかのようだった。 襖の開かれる音とともに、痩躯の辻が現れ二人を見下ろす。
「真っ暗だな」
辻はわずかに苦笑する。暗闇に目が慣れたつなきとをがわには辻の表情も見えるが、辻には二人の顔もよく見えない。 つなきが自分の着衣の乱れを直す。
シャツの前を合わせ、ズボンを腰まで戻す。 これから先の行為には無意味だとわかっていても、乱れた印象を思わせる姿を見せるには羞恥心が残る。それが暗闇であってもだ。
「てっきり戻って来ないのかと」
畳に座り直したをがわが、目線だけを辻に向けて言う。
「ふん。差し入れだ」
辻は、をがわの前に小さな袋を2つと、液体の入ったようなボトルを投げる。 目が慣れているとはいえ、見知らぬ物を投げられたをがわは辻に問う。
「・・・?なんだこれは」
「コンドームと潤滑ゼリーだ」
辻は即答する。もうあまり酔っていないのかもしれないな、とをがわは思う。
「随分と準備がいいな・・・」
畳に横たえたままのつなきが、頭を辻に向けて呟く。
「荷物にはならない量だったからな」
「・・・確かに、あった方がいいだろう」
自分はそんな準備をしていただろうか、と思い出そうとするをがわだったが、すぐに冷静になって頭を振った。
辻がつなきの横に座り、身体を少しだけ畳に預ける。ちょうど、をがわと辻の間につなきが寝る形になる。
つなきの向いていた方向に、辻は座りに来た。
「つなき。怖がるな」
重力に流れる髪の毛を、軽く辻の手が撫ぜる。
「怖がってなど・・・。だがそんな簡単にできるものか」
つなきの声は、怯えた声色は既に潜めて平静通りに戻っている。
辻はつなきの唇に軽くキスをする。そして、緩めていただけだったズボンを脱がし始めた。
長いボトムを丁寧に脱がすと、畳の上に寝かせた。暗い室内の中で、い草の匂いが辻の鼻腔をかすめる。 つなきの両膝にそれぞれに軽く開いた手を置くと、太腿をつま先側から付け根へとゆっくり滑らせて、下着も脱がせて行く。 行きとは反対に、帰りは腿のを上から下へ遅ピードで撫でる。 辻に下半身の衣服を脱がされている間、つなきはをがわとずっとキスをしていた。互いの舌の絡みあう、深いキスだった。
をがわは上半身を、辻は下半身を成行きで担うことになった。
つなきの身体を高めて行く。
をがわが乳頭を舌で舐め、軽く歯を立てると、ん、という声が漏れる。
辻が局部を左手で愛撫し、臀部の下の腿裏を右手で摘むと、あ、という声が漏れる。
つなきは抵抗するでもなく、愛撫を受け入れていた。 やがて辻が潤滑ゼリーを手に取り、つなきの尻臀の間へと指を滑らせる。
「ゆ、っくり・・・」
身体の中へ指を入れられる前に、つなきの身体が自然と強張る。 寝かせていた頭を少し持ち上げ、潤んだ瞳で辻を見た。
「痛くはしない」
辻が淡々と言う。問題ない、任せておけとでも言いたいかのようだった。
有言通り、辻の指の動きは優しい。円を描くように少しずつ緊張をほぐし、侵入を進める。 その間も、つなきはをがわの身体に抱きつく。をがわは何も言わずにつなきの頭を撫でる。
「痛っ……馬鹿・・・」
「む・・・あまりしてないのか」
辻の指が第二関節まで入った所で、つなきが抵抗を示す。 予想よりもつなきの痛みが早く出た事に、辻は意外そうにする。
「ああ・・・そうだ・・・していない」
つなきの声は、落ち着いてはいるがしっかりと強い意志が込められたかのようだった。
その時、和室内に聞き覚えのある振動音が鳴り響く。 辻の携帯電話だった。
彼の電話は少し離れた机の上に置いてあり、この状況では手を伸ばしても届かなかった。
「もしや」
辻が呟く。もしかして、と彼は言うがビジネス用ではなくプライベート用の携帯電話が鳴っているのだから、相手はほぼ限られている。 普段同じ屋根の下で寝て暮らしている彼らのうちの誰かだ。
緊急の仕事ではないのなら気づかなかった事にしておけるのだが、その誰かも検討は既に付いている。 電話に出てやらなくては。 辻はゆっくりとつなきから離れ立とうとする。
しかし、それををがわが静止する。
「オレが出る」
をがわにも、電話の相手はほぼ検討が付いている。
辻はをがわの顔を見ると、それでは頼むと言い再び腰を下ろす。 をがわがつなきから離れる。つなきの両手は、直前まで抱きしめていたをがわを名残り惜しむように、肩幅に開かれている。
をがわが辻の携帯電話を手に取り、そのまま障子の外まで歩く。
辻はつなきの手を手に取っていた。 そして障子が閉ざされる。
をがわの手によって。
彼には、この電話のタイミングすら、辻に味方をしていたとしか考えられない。
をがわは画面を親指でスライドさせ、辻の「もしや」の相手と繋がる。
「羽山か」
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